南米's diary

2016年9月〜2017年3月頭まで南米を旅する無職な二人の愉快な日記。

権化との出会い。そして、私を襲ったものとは? 〜VICHYのBBクリームをめぐる攻防〜

Hola! 今日はチリでの面白い小話をいくつか書きたいと思います。っと、最後まで書き終えたら、一つの話が普通の長さになってしまったので、今回は一つの話だけお楽しみください。

恐怖のショッピングセンター編

あれは、サンティアゴのManquehue駅の近くにあるショッピングセンターで二人で化粧品の買い物をしたときのことです。皆さんご存じの化粧品会社ロレアルの子会社であるVICHY(ヴィシー)の商品を私たちは買おうとしました。目当てはBBクリームです。私だってBBクリームくらい塗ります。それどころか、最近はうっすらお化粧までしています。チリに来て美意識が高まりまくりです。

VICHYの販売場所には、まるで権化かと見間違うほど優しい表情をした販売員がいて、とても丁寧に商品について説明してくれました。多分、私がかわいかったからだと思います。

「これはオイル肌向けで、これは乾燥肌向け、そしてこれは混合肌向けだよ。試してみるかい?」

ここで、パティシエがケーキにホイップクリームをちょこんと出すさまを思い出してください。あの様相で彼が私たちの手にBBクリームを出してきたのです。華麗な動きで、優しく、繊細に、飛び出してくるBBクリーム。それを私のガビンガビンの肌と、まりあたんのツルツルピカピカの肌で受け止めます。オイル肌向け、乾燥肌向け、混合肌向け、それぞれ違った味わいがあり、muy bien(とてもよい)です。渇きを失った肌が喜んでいます。

「うーん、色がねぇ……」

唸りを上げるまりあたんの声が隣から聞こえてきました。まりあたんの肌は雪のように白いので、BBクリームの色に納得がいかないようです。どれが自分の肌に合うか迷っていると彼が、

「こっちもあるよ」

と言い、違うBBクリームを出してきました。先ほどとは一味違った華麗な手つきで私たちの手に次々とクリームを乗せていきます。なんとこの2つのBBクリームは、SPF50で、紫外線のUVBとUVAを防いでくれます。大まかに書くと、UVBは日焼けの原因となる紫外線のことで、UVAはシミやシワの原因となる紫外線のことです。美肌美人を目指している二人にとって、シミやシワは敵です。とても大きな敵です。二人ともこの商品を買うことにしましたが、肌触りがサラサラのもととゴワゴワのものがあります。

私はサラサラが気に入り、まりあたんはゴワゴワキャピキャピが気に入りました。早速、彼にこれらの商品を買いたい旨を伝えます。

「これとこれをください」

「おーけ。これとこれだね。ちょっと待ってね」

私のスペイン語が伝わったようです。一安心です。数十秒後、彼の手に握られている二つのパッケージが目に入りました。よく見てみると、二つとも同じ種類のBBクリーム。まりあたんが買いたいと言っていたほうです。

「えっと、私はこのBBクリームが欲しいのですが、これは違いますよね?」

と勇気を出して言ってみたものの、彼はやはり権化のような顔で、

「大丈夫だよ。これはこれだからね」(私が欲しい物)

と言ってきます。私が手に持っている試供品の名前と彼が持ってきたパッケージに書かれている名前が明らかに違うにもかかわらずです。

「いやいや、違うって」

「いやいや、大丈夫だって」

「いやいやいやいや、違うって」

「いやいやいやいやいや、大丈夫だって」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやあああああああああああああああ」

もう何も考えられなくなった私は、パッケージの名前は違うけど、中身は私が欲しい物なんだと思うことにしました。そうだ。権化が「大丈夫」って言っているんだ。権化だよ、権化。権化とは、「仏・菩薩 (ぼさつ) が人々を救済するために、この世に仮の姿となって現れること。また、その仮の姿。化現 (けげん) 。権現 (ごんげん) 。化身」(出所「goo辞書」)という意味ですから、仏が私をあざむくわけがありません。あの優しい笑顔の裏に、世にも恐ろしい顔があるとは思いません。大丈夫。パッケージは違うけど、中身は私が欲しかった物。大丈夫。パッケージは違うけど、中身は私が欲しかった物。大丈夫。パッケージは違うけど、中身は私が欲しかった物。

呪文のように幾度も心の中で唱えながらお会計を終えました。一刻も早く家に帰り中身を確かめたかった私は、ショッピングセンターから家までワープしました。これは己の体を犠牲にすることによって使える技です。今回は右腕を持っていかれましたが、大丈夫です。そんなことより私は早く中身を確認したいんだ。

正座をして、背筋を伸ばして、例の商品を目の前に置きます。まず、一礼。商品に優しく語りかけます。

「おまえは、パッケージは違うけど、中身は私が欲しかった物だよな」

その瞬間、商品が深く息を吐き、「うん」とつぶやくのを私は見逃しませんでした。よし。大丈夫。これで安心して中身を確認することができます。生まれたての赤子に接するように、パッケージのふたを優しく撫で、指でぐっと押し、空いた隙間に指を差し込み、ふたの一端をつまみ、上に持ち上げます。いよいよご対面です。私が欲しかった物と。まさに、中から出てきたものは私が欲しかった……? 私が欲しかった……? え? 私が欲しかった……。f:id:en_chile:20161014072045j:plain

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

これは私が欲しかった物と違ううううううううううううううう。いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

終わり